ピアノ伴奏

私の通っていた中学校は超田舎にあり、およそ現代社会とは思えぬ振る舞いが許される野蛮人のパラダイスだった。

そのせいか、そのせいでないかどうかは知らないが合唱コンクール伴奏ができるレベルのピアノが弾ける生徒が異常に少なく、数少ないピアノを弾ける人類であった私は他のクラスの伴奏も引き受けていた。

合唱の様子をカメラで撮影され、卒業式の時にそれが公開されることを知るのと同時にピアノ伴奏者だけがカメラから見切れていることも知った私は、積極的にピアノ伴奏に手を挙げるようにしていた。

 

いまでも、暗譜しているし楽曲自体は好きなものも多い。

忘れないように、忘れてもこれを見れば思い出せるように本稿を記す。

 

1.COSMOS

唯一、私が自分のクラス伴奏でコンクール優勝を果たした曲。

歌詞もメッセージ性があるようで、ないような曖昧さがなんとなく好き。

特に好きなパートがあるわけではないが、今でもフルで弾けるくらいには覚えている。

 

2.親知らず子知らず

第一印象は「中学生にこれを歌わせるか?」

指がもつれないように割と練習した記憶がある。

「悲劇に向かって挑む者を運命の神は憎むか?」は歌詞も伴奏も好きな部分。

 

3.たじま牛

曲選びの時に初めて聞いて、爆笑した。

超嫌いな男性教師が担任をしていたクラスの曲だった。

疾走感のある導入部が結構好き。短く鋭く歌うのが難しく、何度も何度も呼び出されてピアノを弾かされた覚えがある。

 

4.明日へ

弾いていて1番楽しかった。

爽やかで誰も傷つけない、明るい歌詞は鬱々とした生活を少しだけ明るく感じさせてくれた。「ぼくらのことを何かが呼ぶからまだ見ぬ明日へと走って行くよ」の部分は今も当時も嘘だと思うけれど、なぜか嫌いになれない。

 

5.木琴

導入部が少し古いドラマのオープニングのようでよく覚えている。

この曲を選んだクラスの指揮者は突如意味のわからないことをするので、指揮者を見てピアノを弾くと大恥をかくことが2回目でわかり指揮者をフルシカトして弾いた曲。

 

6.地球の詩

元々はこの曲を選んだクラスの女の子がピアノ伴奏をしていたのだけれど、同じクラスの女子群のイジメで学校に来られなくなったことから急遽ピンチヒッターとしてアテンドされた曲。

3日という短期間で伴奏練習と歌合わせをしたにも関わらず、優勝をすることができた。無邪気に優勝を喜ぶこのクラスの人間に静かな怒りを覚えたことの方が曲よりも覚えていること。

 

7.名づけられた葉

予定調和的なメロディの中に突如としてズレる音が入っているため、用心して弾いていた曲。あとピアノ独奏部分が多いのでそれもあった気がしている。

この曲を選んだクラスは「みどり」という名前の女の子がいるため選んだとかいうよくわからないクラスだったし、歌いながら踊り始めたりとなかなかエキセントリックだった。けどなんもおもしろくなかった。

 

8.時の旅人

学級崩壊していたクラスの選んだ曲。

「すべてのものが友達だったころ」の部分で失笑を禁じ得なかった。片手で数えられるくらいの人間しか歌わないため、合唱として成立しておらず伴奏が伴奏ではなく独奏になりそうだった。

このクラスの真面目な人たちは、他のクラスの人間にピアノを弾いてもらい、全校生徒の前で晒し者になるのか、誰も得しない状況と、それを誰も止められず、止めるつもりがないであろう事実に悲しい気持ちになった。

 

9.旅立ちの時

超有名な「旅立ちの日に」とよく勘違いされていた。

久石譲の曲の多用されているメロディが多く含まれる曲。「微笑みながら振り向かずに」「今ただ一人歩こう 胸をふるわせるときめきを空と大地に歌おう」あたりが特に久石譲の曲か?と思わせられる要素が多い。

当時の私は民族音楽みたいだと感じていた。

 

10.フェニックス

ピアノ伴奏をした中で最も歌が上手だったクラスが選んだ曲。

歌に寄り添いながらも、歌に出し抜かれないように力強い伴奏を心がけた覚えがある。私のピアノの先生が、本番を聞きに来た中で1番伴奏が良かったと言っていたのできっと一生懸命弾いていたのだろう。

 

ちなみに、私のピアノの先生は超エキセントリックでまともにピアノを教えられた覚えがない。「貴族が食事をするようにピアノを弾け」や「楽譜は見るものではない、心臓でのぞき込むものだ」などの指導は多くの門下生にとって意味不明であったに違いないし、私もそうだった。しかしながら、私の感性と非常にあっていたのか長く続けられたし、伴奏の練習にも根気強くつきあってくださった。

いつもアドバイスは「心と指の声を聞く」だったし、美しい声で歌いながらお手本として弾いてくださったピアノの音色は今でもよく覚えている。